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高知家庭裁判所中村支部 昭和51年(少)112号 決定 1976年10月06日

少年 M・S(昭三三・一〇・一四生)

主文

少年を中等少年院(交通教育課程特修科)に送致する。

理由

少年は

(1)  継続反復して自動二輪車を運転する者であるが、昭和五〇年一一月一九日午後四時ごろ、業務として自動二輪車を運転し、幡多郡○○町方面から中村市○○方面に向つて時速一〇〇キロメートルを越える高速度で進行中、同市○○○××××番地先付近道路にさしかかつたのであるが、同所は高知県公安委員会が道路標識及び道路標示により、最高速度を五〇キロメートル毎時と定めており、定周期信号機も設置されている右カーブの道路であつたから、あらかじめ制限速度以下に減速し、その進路上を注視し安全を確認しながら進行すべき業務上の注意義務があるのに、これを怠り、時速約八〇キロメートルないし九〇キロメートルの高速度のまま漫然進行した過失により、自転車に乗つて同方向に進行中の○本○子(当時三〇年)の姿を前方約三〇メートルに発見したが、高速のため同自転車をかわすことができず、自車を同自転車に激突させて、同女を右前方約三〇メートル跳飛し転倒させ、よつて同女を同日午後四時二五分ごろ、同市○○××××番地県立○○病院において頭蓋底骨折により死亡させるとともに、自車後部に同乗させていた○崎○広(当一七年)に加療約八日間を要する右前腕挫創の傷害を負わせ、

(2)  公安委員会の運転免許を受けないで、上記日時場所において上記自動二輪車を運転したものである。

罰条

(1)の事実 業務上過失致死傷、刑法二一一条前段

(2)の事実 道路交通法違反、同法六四条、一一八条一項一号

処遇理由

(1)  少年は、父母ともに教師である家庭の長男として出生し、五歳ごろまで子守の世話を受け、又五歳の時妹が生れ、母の関心が妹に多くそそがれたため、両親に対する愛情欲求を満されないままに幼少期を過したが、少年はこのような家庭環境に加えて両親の転勤によるめまぐるしい転居に適応できず、我ままで協調性に乏しく、しかも情緒不安定な行動傾向の素地を作り上げたものと考えられる。

(2)  少年の小学校時代は、少年に対する両親の期待から、特に父の価値観に基づく教育が相当きびしく行われたが、その結果は父の意に反して、少年に勉強嫌いと父に対する憎悪の念を強く抱かせる結果に終つたように思われる。

少年が中学生になつてからは、自己の要求水準と実力との差を悩み、価値観の転換をなしえないまま学校不適応症状を起し、それまでに身につけた自己中心的、非協調的、偏狭で閉鎖的でありながら自我の強い性向を強化したものと思われる。

(3)  少年は高校進学に何んらの意義も見出せないまま、高校に進学したが、少年の心はこれにより満されることなく、やがて自己の骨相、容貌につき両親の責任を問うという形で両親に対して時には暴力的にその不満をぶつける一方、オートバイや占いに対して異常な関心を示すようになつた。

(4)  少年は高校に入学し、一六歳になると同時に原付自転車の免許を受け、これを運転していたが(スピード違反二回、その内一回につき不処分決定)、やがてこれにあきたらず、自動二輪車の免許を取得するため教習所に通い始めたものの、事故を心配した父から自動二輪車は買つてやらないと言われたことから教習所を中途で放棄した。しかし自動二輪車に対する関心は極めて強く、遂に両親に無断で家の金を持出し、本件事故車(三八〇ccの中古車)を買い、両親による適切な処置がなされないままで反復運転中本件事故を起したものであり、本件事故の態様は、友人を後部に同乗させ時速一〇〇キロメートル以上の高速で直線コースを走り、やがて右カーブをどの位の速度で走行できるか試すつもりで信号機も意に介さず、八〇ないし九〇キロメートル毎時の高速で右カーブ(交差点)を曲がり、本件事故に至つたものである(被害者は二児の母親であり、事故後少年の両親は自賠保険金一、五〇〇万円の他に一、二二〇万円で示談)。

(5)  事故後少年はその衝撃と不安、挫折感から部屋にとじこもり、その一方では毎々に親に反撥し暴力を行使し、極度にすさんだ行動を示した。事故後四か月位を経て、少年が外で働くようになつてからは両親に対する行動は若干改善されたが、本質的には変化はなく、すでに指摘した少年の問題的性格ないし性質は少年自身に認識されておらず、このはけ口を両親から離れて大阪に行き軽俳な都会的文化や遊びの中で発散させて気持の安定をえようとしているものと判断される。

結論

以上によれば、少年には少年が自分自身の持つ欠点をよく認識したうえ、心を開いて事実を見つめ、これを正しく判断することが大切であるが、本件のような重大事故の発生も、少年にとつてはそのチャンスの第一歩にもなしえず、その責任を両親に転稼し、自己は大阪に逃避(精神的にも)する姿勢であり、このような態度は在宅指導あるいは委託制度の活用を実あるものにすることは困難である。とはいえ、少年のこれまでの生活環境は少年が一般非行に積極的に加担することは十分に阻止しうるものがあり、少年院通常課程での教育は相当でないと思料される。むしろ少年には本件事故に対する時を与え、交通教育課程を通じて、少年の問題点を自覚させるよう指導することが望まれる。

よつて、少年法二四条一項三号を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 溝渕勝)

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